芸術と呼ばれるような物は、存在していても意味がないんで、つまり鑑賞者がその芸術に触れて、何かを感じた瞬間に意味を持つわけです、これはもういろんな人が言い尽くしたことですけど、つまり個人にとっての芸術の意味というのはそういう物です。
だから、芸術史における作品の意味と、個人における意味とってのは切り離して考えるべきです。
ここまで前置きで、言いたいことは「権威に対してコンプレックスを持つのは損だし、無意味なんじゃないか」って事です。芸術に関して、の話ですが。

このジャケット、よく見ますね。音楽通っぽい人が一様に推薦する「名盤」です。
これ、僕は全然名盤じゃないと思います。全部聴いたけど、別に何と言うことのないコジャレたレコード、という印象。
いや、このレコードが良くないって事を言いたいんじゃない。「名盤と言っても、別に感動しないことだってあるし、そういう時に『自分はおかしいんじゃないか』と思うのは損です」ということです。
実際、僕もそういうコンプレックスを多少持っていて、いわゆる「名盤」を一回聴いて「くだらねえ」と思ってもですね、これは自分が間違ってるんじゃないか、本当はすごい音楽なのに、自分が気付いてないんじゃないか、とか思うんですよ。
で、数年経ってからもう一度、そのCD出してきて聴き直すんですね。でもね、聴き直してもダメな物はダメなんですよ。一回聴いてダメな物は、10年経って聴き直してもダメです。これは経験から言えます。
だからね、無駄なんです。いかに名作・名盤と言われてようが、自分にとってダメな物はまあ、多分無意味です。だからそういう物は切り捨てちゃって良いんです。
最近で言えば映画の話ですけど、黒澤明の「生きる」を見て、ああもうこの映画くだらねえなあ、と思ったんですよ。そういうもんですよ。
だからね、いるじゃないですか「クリムゾンキングの宮殿」なんかを友達に聴かせて、感想言わせて「良くなかった」とかいうと「お前は音楽を分かってない」とか言うプログレバカ。ああいうのは気にすること無いんです。
いや、クリムゾンが良くないとか言う人とは話をしたくないけど、まあそういう話ではなくてね。
私なんぞは芸術史における「名盤」にも眉に唾をつけてますよ。普遍的ないい悪いの判断なんぞあり得ないと思うんですね。
たとえば、スコット・ジョップリンは音楽の歴史的に重要だけど、彼の音楽自体が普遍性を持っているかといえばそんなことないですよ。
「名盤」などという言葉は早々に駆逐した方がいいですな。
それにしても私とLSTYさんの音楽の趣味はなかなか上手い具合に重ならないもんですねぇ。
僕は別に「名盤=悪」とはとらえていなくて「名盤が分からなければダメ」という感覚が無駄だと思うんですね。一般的に名盤とされる物というのは、それはそれで有用だとは思います。
気に入らなければまた「別の名盤」を聴いてみればいいだけだと思うし。入門編としての名盤なりベスト盤なりというのは、あった方が良いでしょう。腹の立つセレクトも多いですが。
歴史的に意味があるかどうかと、良い悪いがリンクしないというのはそうですね。歴史の中で消化されて「当たり前」になってしまった物もあるし。僕はデュシャンとか寺山修司とかがそうだと思ってるんですが、当時は衝撃だったかも知れないけど、今となっては普通。
>私とLSTYさんの音楽の趣味はなかなか上手い具合に重ならないもんですねぇ。
意外と重なってますよ。十庵さんのお薦めは僕にとって「嫌いではない」部類の音楽ですから。しかし好みが似ているからこそ、その間にある決定的な違いが浮き彫りになるという部分はありますね。