しかたなく宿に下がった女王だが、実はこの人、夜になると大酒を飲み、朝が大の苦手。翌日も翌々日も深酒が祟って寝坊をし、王との面会時間に間に合わない。
一週間ほどした真夜中、ある従者がたまりかねて女王を起こす。「女王様、お願いですから今日は起きてソロモン王との面会に出かけてください」
しぶしぶ起きて出かけた女王、眠い目をこすりながらヨルダン川の浜辺で面会時間を待っていると、エルサレム神殿から時刻を伝える鐘の音が聞こえる
「ああ、エルサレム神殿の鐘だ。神殿の鐘には金が混ぜてあるから音が違うと聞いたけれど、本当かしら」
しかしよく聴くと、鐘を打つ回数が足りない。従者が間違えて、一時間も早く女王を起こしてしまったのだ。
腹の立つ女王だが、宿に戻るのも面倒だと川面をなんともなしに眺めていると、キラキラと光るものがある。拾い上げると真鍮の指輪。「これはなにかしら」と思う女王の周りに靄がただよい、天使が舞った様に見えると、突然、女王にヤハウェの啓示があった。ソロモン王の知恵などおよばない、偉大な知恵が授けられたのである。
指輪をにぎり、急いで宿に帰った女王は、これはめでたいと従者とともに大宴会。すっかり酔って昼間から床についてしまった。
翌朝起きた女王は従者から「それで、いったい女王様は何を授かったので?」と訊ねられる。「なにがって、指輪を持って帰っただろう」「いえ、そんな物お持ちじゃありませんよ」と従者。「だって、夜明けを待つ間、ヨルダンの浜で」「女王様、ヨルダン川になんて行ってないじゃありませんか。それは夢ですよ」
なんと、指輪を拾ったのも知恵を授かったのも、すべては夢だったのだ。
それからの南の女王はすっかり改心し、大好きな酒も止めて神殿に日参を始めた。ソロモン王へも何度か面会し、十分な知恵を授かることができた、さあ国へ帰りましょうと思ったのがなんと三年後の秋の話。
女王は従者とパンと苦菜、羊肉を食べながら、今年も静かにすぎこしの祭りが祝えることを喜ぶ
ふと、一人の従者が古い指輪を出した。
「なんだい、この指輪は」「実は女王様…」従者が言うには、女王が指輪を拾ってきたのは決して夢ではなく本当のこと。
従者達は女王の酒癖の悪さに頭を悩ませ、いずれは国の一大事につながるかもと、結託してこの機会に嘘をついたのだ。
「女王様のためとは申せ、このような嘘を…」「いやいや、よいよい。しかしあの啓示は夢ではなかったか。めでたいことだ」
そこで別の従者がワインを捧げ持って出てきた。「女王様、三年もの間、よくご辛抱くださいました。今日は祭り、お召し上がりください」
女王喜び「おお酒か。今日はめでたい、そなたも飲め」とは言ったが、しばらく杯の中のワインを眺めたかと思うと
「いや、やめておこう。また夢になるといけない」
お馴染み「シバ浜」の一席でございました。